本や映画の感想集

最近はThe Doorsを聴いている

閑話休題 レミオロメンを知った頃。そして尾崎豊との再会。

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今回は音楽の話を書きます。とは言ってもいつもの特定の本を紹介している形とは少し異なり、「音楽との出会い」そのものについて個人的な話を例として書きます。

 【目次】

 長すぎる前置き(飛ばしてもOK)

アラフォーの僕は80年代後半あたりから、パンクやニューウェーヴを聴きだしました。その頃はパンク10周年ということで、雑誌やレコード会社がそういった企画を組み盛り上がっていました。また日本のバンドブームの影響もあり、「バンド」というものがとても人気がある時代でもありました。ですので海外のパンクバンド、それも主に70年代のものを中心に聴きはじめ、そこから同時代のものも聴き、運よくクリエイションレコーズ、サブポップ、マイブラ、ティーンエイジファンクラブ、ダイナソーJr、あたりはリアルタイムで体験することができました。もちろんそれ以外にも今となっては歴史に埋もれてしまいそうなバンドやムーブメントもたくさんありましたがキリがないのでここでは割愛します。

そういうわけで、主に海外の音楽を中心に聴いてきましたので、今でもその嗜好性は変わりません。しかし、時々偶然出会ったいわゆるJ-POPに心奪われるときがあります。元々の嗜好性に加え、歳を重ねるごとにさらに新しい音楽への嗅覚は落ちているので、この「偶然出会う」にはかなりのインパクトが必要になります。これはそんな音楽との出会いについて書いたものです。

 

真夜中、歌いながら猛スピードで駆け抜ける男性が出現するも、曲がまったくわからない。

僕の住むマンションのベランダはそこそこの広さの道(一応片側一車線ずつある道路)に面している。昼間は抜け道としてそこそこの交通量があり夜にはぐっと減る。なので夜は静かなものだ。

しかしある時から「大声で歌いながら疾走していく(たぶん若い)男性」が現れたのだった。一般道路で歌っているわけなので「ふんふんふん~♪」みたいなものを想像すると思う。でもちょっと違う。もうそれは熱唱、いや選曲によっては絶叫と言っても決して大げさではないレベルだった。

時間はだいたい23時~25時くらいの間、多いのは日付が変わったころ。あまりにも大胆な歌声に最初こそ「うるさいなあ」と思ったが、それが何度も続いてくると可笑しみを感じ、次第に期待するようになった。その声が流れていく速度から考えるとおそらく自転車に乗って走りすぎていると思われた。そうなってくると当然歌われている曲も知りたくなってくる。しかし通り過ぎるその一瞬から曲を判断するのは非常に難しい。かろうじて日本語であろうことは分かった。

最終的には妻にも「可能な限り気にしていて。」とやんわりお願いしているようで実はかなり強制的なニュアンスも含むお願いまでした。そして妻が出した結論は、「おそらくいま流行っているJ-POPなんだろうけど、原曲を知らない自分たちに分かるわけがない。」というものだった。ごもっともです。まったく勉強せずに試験を受けても手も足も出ない。普通のことです。

 

ある日気になる曲が聞こえてくる。レミオロメン「粉雪」との出会い。

それでも夜な夜な聴こえてくる歌声は僕を楽しませてくれた。長い夜のほんの数秒だけフェイドインしてくる声は、周波数を合わせている途中のラジオから一瞬流れるヒット曲のようだった。そんなある日、いやに歌詞がくっきりと聞こえてきた。

「こなーゆきーねえこころまーでしーろくー・・・」

情感たっぷりの歌声からはどこか悲痛ささえ感じられた。んん?ねえ聞こえた?と妻に言った。妻も少し興奮していたと思う。こっくりとうなずき、こう答えた。「聞こえた!レミオロメンだよ。」

恥ずかしながら当時ヒットしてい「粉雪」をまったく知らなかった。僕は妻に歌ってほしいとお願いをした。うろ覚えの歌詞だったけど恥ずかしそうにサビを唄ってくれた。いい曲だなあ。翌日、僕はひさしぶりにJ-POPのCDを買いに行った。スピッツの「運命の人」以来のことだった。すでにおじさんになろうとしていた僕にもどこか響くものがあった。冒頭の歌詞からしてすでにいい。たぶん男性もこの曲が特に好きだから歌唱にも力が入り、ついに全く関係ない僕の心を打ったのかもしれない。音楽とはそういう性質ものだと思う。

 

一目見ようと。ウインドブレーカー。マウンテンバイク。

そうなると気になるのは”一体どんな人物が”これほどまでに大声で粉雪を歌っているのか?ということだ。まず歌声が聞こえた瞬間にベランダに走り出て確認する方法を試したが、そのしっぽを掴むことすら出来なかった。いや別に容疑者や珍獣ではないのだ。正しくは、その後ろ姿すら見ることは出来なかった、だ。

そりゃそうだ。僕は息をひそめてベランダに立っているわけではなく、2LDKのマンションの中でトイレに行ったり、お茶漬けを食べたり、ソファにすわって本を読んでいたりしているのだ。

しばらくしてから僕は遂にベランダに面した部屋で待機するという方法に出た。2月のことで、窓を占めていても隙間から入ってくる冷気でカーテンの傍はひんやりしていた。風の音が部屋の中の沈黙を埋めていた。

当時僕は割と忙しい会社員でそこそこ残業もしていたので、それほど暇なわけではなかったはずだ。この頃のことをいま思い返すと、流されるがまま気が付いたらサラリーマンになり何の展望もなく時間が過ぎていく毎日に焦りを感じていたように思う。だから普通はちょっと考えられないくらいこの「歌手探し」に熱中してしまったのかもしれない。

そして待機すること3日目、24時過ぎについに歌声が聞こえてきた。

咄嗟にベランダに飛び出てやっと声の主をこの目で見ることができた。声の主は青年だった。ここまでですでに初めてこの青年の存在に気が付いてから2年近くの歳月が流れていたと思う。斜め後ろからの顔(頬とあごのライン程度)、ウインドブレーカー、おそらく175センチ前後のしっかりとした体格、長髪ではないが短くはない髪、マウンテンバイク。何かイメージがあったわけではないが、少なくともこの雰囲気は想像していなかった。その時の興奮は今もはっきりと覚えている。
しかしその頃を境に、この青年の歌声があまり聞こえてこなくなった。僕は姿を確認して急速に好奇心を失ったのか、妻に言われるまでそのことに気が付いてもいなかった。

 

久しぶりに青年の歌声。尾崎豊「卒業」との再会。

おそらく僕が青年の姿を見てから1年近く経った頃、再び懐かしい青年の歌声を聞くことができた。

洗濯物をしまい忘れたことに気が付きベランダに出た時のこと、いきなり青年の歌声がフェイドインしてきた。軽いデジャヴュ感覚を覚えながら僕は声の方に意識を集中させ、次にベランダから上半身を乗り出すようにして道路を見た。

懐かしい青年が自転車をこいでこちらに向かってきた。青年が歌っていたのはこんな曲だった。
「あとなんーどじぶんじしんそつぎょうすれーばー、ほんとーのじーぶんにたどりつけるだーろー・・・」
間違いない、尾崎豊の「卒業」だ。これまで歌っていたのがその時々の流行歌だったとしたらちょっと趣が違う。

青年はたぶん以前と同じマウンテンバイクに乗っていたが速度はゆっくりしたものだった。あるいは曲調が速度を落とさせたのかもしれない。歌声は淡々として聞こえた。髪は短くなっていた。そして初めてみた青年は精悍な顔立をしていた。
その表情は特に一定の感情をあらわしてはいなかった。むしろ無表情で唄っていたように見えた。しかし元気がないとかそういった印象でもない。一体何を考えていたのだろう。おそらく粉雪を唄っていた時はもう少し違った表情だったのではないだろうか。


それから。きっと青年は就職して違う街に引っ越したのではないか。

それから今日まで、青年の歌声が聞こえてきたことはありません。以下は僕の推測、想像です。たぶん半分くらいは当たっていると思います(笑)

  • 当時青年は大学生だった。
  • いつも遅い時間に通り過ぎていたのは、アルバイトの帰りではないか。それも飲食店かなんかで威勢よく働いたあと、店の責任者からビールの一杯でも飲ませてもらいほろ酔いだった。
  • それほど詳しい訳ではないが音楽好き。選曲はその時々のヒット曲。
  • 高校までは運動部。
  • レミオロメンを唄っていた時は恋があまり上手くいってなかった。
  • 卒業を唄っていた時は、大学卒業~就職の頃だった。おそらくこの青年はマジメなタイプだと思うが、それでも卒業の意味、社会に出ていく不安、何かしら考えていたのだろう。”この支配からの卒業”とまではいかないまでも。
  • 大学卒業~就職を経て違う街に引っ越しした。
  • 現在は結婚して子どもも二人くらいいるかもしれない。

 

以上、音楽との出会いは様々で、時にはその出会い方そのものが人生を豊かにしてくれる場合もあるという話を書いたつもりです。


僕は今でも同じ賃貸マンションに住み続けています。生涯賃貸最強説を採用することにしたのです(笑) たまに家の前から歌声が聞こえると、僕も妻も自然と話を止めて、耳をすませます。そして何もなかったかのようにまた話を続けるのです。

僕はこの青年といつか話をしてみたいと思っています。例えばこんなことが起こる可能性だって0ではない。

僕の働いている会社に中途入社してきた男がいたとする。段々話をするようになり、かつて僕の住む街に住んでいたことが分かる。そしてある日会社の飲み会の二次会かなんかでカラオケに行く。僕はカラオケは苦手なので歌わない。だからこそ男に歌うよう勧めたりもする。卑怯なことに。男は「粉雪」を選択する。僕は「おっ」と思う。そしてサビがきたときに僕は茫然として男の顔をみる。

そんなことがあったらまた書きます(笑)

すぐ終わると思って書き始めましたが非常に長い話になってしまいました。読んでくださった方、ありがとうございます。

 

今週のお題「卒業」